
早朝、日釣り券購入のために鹿塩地区の旅館・塩湯荘へ立ち寄ると、当旅館の主・熊谷英俊氏はこの日も優しい笑顔で出迎えてくれた。氏とはふとしたきっかけからの知り合いである。それは3年前、入漁券と一緒に魚の絵が焼印された竹製の札をいただいた体験に由来する。焼印された魚の大きさはちょうど15センチで、下伊那漁協の定める捕獲最低寸法が瞬時に判断できるようにとの工夫がされていた。
「大鹿村へ訪れた釣り人に対して広く配布することで、渓魚の減少に歯止めを掛けたい」
大鹿村商工会青年部が中心となって、稚魚の乱獲防止を啓蒙するために独自のアイデアで竹札を製作。熊谷氏はその当時リーダー的な役割を果たした。今年4年目を迎え、現在もこの地道なボランティア活動は続けられている。
……暫しの歓談の後、小渋川水系のとある支流へと分け入った。本格的な雪代を前にした流れは細く冷たく透明で、小さな釜状のポイントにはイワナの気配がするものの、そうやすやすと口を使おうとはせず、挨拶程度の均衡が続いた。普段であればいら立つところ、この日は時折見せる岩陰からのわずかなチェイスに安堵するものがあった。なぜなら、変貌する渓相に立ち向かって懸命に生き抜いた彼らの姿を今年も確認できたこと、そのことが嬉しくてたまらなかったからだ。